夜の祝福あれ

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砂時計の音

部屋の隅に置かれた古びた砂時計が、静かに時を刻んでいる。誰もその音に気づかない。だが、彼女だけは違った。

美咲は祖母の遺品であるその砂時計を、毎晩ベッドサイドに置いて眠っていた。カチ、カチ、と砂が落ちる音が、まるで心臓の鼓動のように彼女の不安を鎮めてくれる。祖母が亡くなってからというもの、眠れぬ夜が続いていたが、この音だけが彼女を現実につなぎとめていた。

ある夜、砂時計の音が変わった。いつもより速く、そして重く響く。美咲は目を覚まし、砂時計を見つめた。すると、砂の中に何かが混じっているように見えた。よく目を凝らすと、それは小さな文字だった。

「戻りたいなら、砂を逆さに。」

美咲は震える手で砂時計をひっくり返した。すると、部屋の空気が一瞬で変わった。カーテンが揺れ、時計の針が逆回転を始める。彼女は目を閉じ、祖母の声を思い出した。

「時間はね、音で記憶されるのよ。」

目を開けると、そこは祖母の家だった。まだ祖母が生きていた頃の、あの懐かしい居間。美咲は涙を流しながら、祖母の腕の中に飛び込んだ。

砂時計は、静かに音を立てていた。


お題♯砂時計の音

10/17/2025, 3:17:58 PM