瑠衣

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『白昼の風鈴』

真夏の午後、蝉の鳴き声だけが遠くに響く中、風鈴職人の〈奏多〉は古びた工房でひとつの風鈴を仕上げていた。
硝子越しに差し込む陽光が、机の上に虹色の輪を落とす。その瞬間、ふと意識が遠のき、奏多は目を閉じる。

次に目を開けたとき、彼は見知らぬ町に立っていた。すべてが優しい色合いに包まれ、風鈴の音が風に乗って流れてくる。
道端には、幼い頃に別れた祖母の笑顔があった。「この風鈴の音、まだ覚えてる?」と彼女が語りかける。

彼女の手には、奏多が作ったはずの風鈴が揺れていた。
でも、それは工房には存在しなかった色――夢の中でしか見たことのない瑠璃色。

祖母と過ごす穏やかな時間。夏祭り、縁側、麦茶の香り。
そのすべてが真昼の陽射しと共に、夢のように淡く儚く、美しい。

目覚めると、工房には静けさだけが残っていた。
でも――机の上には、瑠璃色の風鈴が、風にそっと揺れていた。

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作者からメッセージは特にありません〜

7/16/2025, 12:10:03 PM