【子供のままで】
突然の事故で両親を失ったとき、周りの親族は自分の都合ばかりを主張して、誰一人として僕を引き取ると言わなかった。
たまたまその場に居合わせた早苗さんは、大学時代からの両親の友人だった。彼女は、互いに責任を押し付け合う親族から僕のことを遠ざけ、こう言った。
「あのね、子どもが子どものままでいられる時間って、本当に短いの。だから、今は思いっきり「子どものまま」でいて欲しい。私たち、ちゃんとあなたが大人になるまで見守るから」
そして、未だ罵り合っていた親族に「彼は私が家族として養育します。どうぞご心配なく!」と言い放ち、僕の手を引いてその場を後にした。
その後の僕は、周りの大人たちに遠慮することなく「子どものまま」でいられた。それは、早苗さんがあのときの言葉どおり僕を見守り続けてくれたからだ。
今日、僕は成人年齢にあたる18歳の誕生日を迎えた。早苗さんに手を引かれた日から、干支が一回りした。
「いよいよ大人の仲間入りね。おめでとう」
笑顔でそう言ってくれる早苗さんに、僕は内緒で用意していた小さな花束を差し出した。そして、この日初めて彼女を名前以外で呼んだ。
「今まで本当にありがとう。これからも変わらずよろしくね、母さん」
母の目から大粒の涙がこぼれるのを見るのは、この日が初めてだった。いつまでもいつまでも、母は泣きながら僕を抱きしめ離さなかった。
明日は母の日。上手くできるかわからないけど、母の大好きなオムライスを作って祝おうと思っている。
5/13/2023, 9:43:58 AM