短い小説 『閉ざされた日記』
一度だけ、恐ろしい日記を見たことがある。
他所さまのペットの世話をするバイトをしていた時のこと。
何回か行っているが、少しばかりやんちゃな性格で毛や排泄物が所々ついており、なかなか大変であった。
ある日、部屋を掃除している時、タンスにぶつかり、中のものが全部出てきてしまった。
一つ一つ拾い、戻していると、落ちたものの中から高価そうな日記が出てきた。
日記は鍵付きだが、鍵は掛かっていなかった。
飼い主さんの日記…?
少し興味が湧き、中を見てみた。
“○月○日、
ウチに可愛いコがやってきた!
緊張してるのかな?ぷるぷるしてて可愛い~💠
名前何にしようかな?超可愛い名前にしよ!”
最初の数日間は微笑ましいことが書かれていた。
だが、日記のテンションは徐々に下がっており、絵文字も少なくなっていた。
その後、筆圧が強すぎたのか、一部破れており、殴り書きで書かれているページがあった。
そのページは、読みにくかったが、こう書いてあった。
“✕月✕日、
誰も分かってくれない。
誰も気にかけてくれない。
私のことがどうして分からないの??
分かってくれない奴らは皆まとめてツブス”
まだページはあったが、これ以上は見なかった。
帰ってきた飼い主さん。ニコニコしているが、よく見ると髪が乱れていた。
飼い主と少し雑談したが、多分私の声は震えていたかもしれない。飼い主さんは終始ニコニコ。このニコニコが本物だとしたら、あの日記は嘘か他の誰かの日記だろう…。そうであってほしいものだ。
今はバイトを辞め、接点も完全になくなった。
あの家のペットの世話は他の人がやっているようだが、あの飼い主さんは幸せに暮らしているだろうか。ぜひとも幸せであってほしいものだ。
1/19/2023, 9:12:04 AM