はっきりと決まっていたわけではなかったが、年末になるとギルドの広間に集まって、各々好きに過ごしながら年を越す。そんな慣習ができていて、ナハトは年が明ける十数分前にようやく戻ってきたところだった。駈け込んで来た彼をメンバーの面々は労った。
時計の針が十二時を指した瞬間、部屋中にクラッカーの音が鳴り響いた。連続して小気味いい音が鳴る。浮かれた雰囲気は嫌いではないが、この音は好きではない。ナハトは耳に指を突っ込みながら、そっとその場を離れて、部屋の一角にある暖炉に向かった。
そこには既に先客がいた。アンネだ。二人掛けソファの肘掛けを枕にして、すやすやと寝息を立てている。どうも暖を取っているうちに眠ってしまったらしい。
他に座るところがないので、仕方なくナハトは空いている隙間に腰を下ろした。彼の体重でソファが沈み込む。そのとき、アンネが身動ぎした。
彼女は重い瞼を薄っすら開けると、あくびを一つこぼした。
「あー……、起こしてごめんな?」
声をかけられたので、彼女は声の方向へと目を向ける。いつの間に帰っていたのやら、ナハトが申し訳なさそうに苦笑して、自分を見ていた。アンネはぱちくりと瞬きすると、慌てて起き上がった。
「な、ナハトさん、お帰りなさい……」
「ん、ただいま」口許を緩めるとナハトは続けた。「ついさっき、年を越したぜ」
えっ、と小さく彼女は声を上げた。初めての年越し、みんなと一緒に迎えたかったのに。
「クラッカーがあれだけ鳴ってたのに、よく起きなかったな」
そう言うと、彼はおかしそうに小さく笑った。
アンネが振り返って、広間の中央付近を見やると、あちこちに紙テープやら紙吹雪やらの残骸が目に入る。ますます、彼女はしょんほりしてしまった。
しゅんと肩を落とす彼女を見て、ナハトは彼女の頭をぽんぽんと撫でた。
「アンネも今日は任務だったんだろ? たぶん、よっぽど疲れてるんだから、早く部屋に戻って休めな」
ちらりとアンネはナハトを上目づかいで見やった。彼はアンネの頭を撫でながら、何だとでも言いたげに小首を傾げた。
「わたし……今年の目標を決めました」
「いいじゃん。何にしたの?」
「今年こそ、みなさんと一緒に年越しするんです」
はは、と笑い声を上げて、ナハトはより彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
1/2/2024, 2:55:02 PM