海月 時

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「僕から離れないでね。」
当たり前だろ。俺等は二人で一つだ。

「双子なのに、似てないわね。」
うるせーな。聞き飽きたわ。口では悪態をついても、心は沈黙し続ける。優等生な兄貴、劣等生な弟の俺。そんな肩書が俺達には憑いて回った。兄貴と比べられる日々。もう慣れた。それに俺には癒しはあった。
「弟〜。一緒にゲームしよ。」
それは兄貴の存在だ。俺みたいな兄弟で差別された奴は、だいたい兄弟の事を嫌いに思うだろう。俺も昔は、嫌いだったさ。しかし今は、俺の大好きな兄貴だ。
「今日は勝つからね。」
そう意気込む兄貴。こんな俺と一緒にいてくれる兄貴を、嫌いになれるはずない。こんな楽しい日々が、続いて欲しかった。

「頼むから死んでくれよ。俺の息子は一人でいい。」
あーあ。何となく分かっていた。俺は不要な人間なんだって。でもさ。実の父親に言われると、さすがに心が痛いよ。もう何でもいいや。死んでもいいや。俺なりに努力して来たつもりなんだけどな。色んな思いがこみ上がる。でも、考えるのも疲れた。俺は庭の倉庫からロープを持ち出し、自室に籠もった。

「何してるの?」
俺が首を吊る準備が終わった瞬間、兄貴が俺の部屋に入ってきた。兄貴の顔に焦りと不安が現れた。
「辞めて。死のうとしないで。僕の傍に居てよ。」
「無理なんだ。親は俺の死を望んだ。俺はそれを叶える。ただの親孝行さ。」
俺が平坦に言うと、兄貴は何も言わなくなった。その代わり、机に置いてあったロープの余りを手に取った。そして俺の輪っかの横に、同じ輪っかを作った。
「辞めろ。お前が死んだら皆悲しむんだぞ。」
「嫌だ。弟の居ない世界を生きるぐらいなら、僕は親不孝者でいい。僕の家族は弟だけでいい。」
はぁ。本当に馬鹿な兄貴だよ。でも、兄貴に見つからない場所で死のうと思えなかった俺も、十分甘ったれな馬鹿だな。馬鹿者同士、こんな結末がお似合いかもな。

「本当にいいのか?俺のために死んで。」
「何を今更。僕は君と居ればそれでいいんだよ。」
椅子に登り、ロープで作った輪っかに首を掛ける。
「でも、少し怖いや。だから、僕から離れないでね。」
俺達は手を取り合って、仲良く宙に浮いた。

7/14/2024, 2:57:21 PM