かたいなか

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「『待っててほしい』っつーお願いなのか、『待ってて損した』とかの継続系なのか、『どれだけ待っててもチョコは無い』みたいなバレンタインか……」
なお類似のお題としては、12月15日頃に「雪を待つ」があったわ。某所在住物書きはプチクラッカーにホイップと低価格キューブチョコをのせて、ぱくり。キリリと渋めの茶で味覚をリセットなどしている。

「ベタなやつだと、リアルで日付間違えた話なら」
待っててネタといえば。物書きが呟いた。
「仕事でバチクソ参っててよ。久しぶりの連休でよ。何分待ってても云々。……1日早く来てたっていう」
あの時の同僚、今何してっかな。物書きは過去に想いを馳せ、2個目のクラッカーを食う。

――――――

前回投稿分から、まさかまさかの続き物。
都内某所、某ブラックに限りなく近いグレー企業の昼休憩、先輩後輩2名が飯を食いつつ雑談していた。
後輩側の愚痴によると、別業種の友人が、クソ上司に先の3連休をブチ壊されたとのこと。

『慰めの言葉をちょうだい』
友人から届いたメッセージに、後輩は先輩のセカンドオピニオンもといコメントを求め、
先輩はため息まじりに、こう答えたのであった。
『美味い肉でも食って元気を出せ』

――「で、何故私まで、お前とお前の友人の焼き肉パーティーに同席することになったんだ」
「大丈夫。先輩、去年その子と会ってる」
「そういう問題ではない」
「4月15日頃。ハンドメイドマルシェ。チョコ包むためのワックスペーパー。思い出した?」
「だから、そういう問題ではない」

時は進んで終業後、後輩側のアパート。
先輩たる藤森は、後輩から提示された時刻に、指定された住所の、つまり後輩の自宅であるところの◯◯◯号室の玄関で、立ち尽くしている。
『美味い肉でも食って』。藤森は己の発したコメントゆえに、後輩とその友人との元気回復焼き肉パーティーに招集されてしまったのだ。
焼肉店は予約済み。90分食べ放題。
人数は後輩とその友人と、それから藤森で計3人。
どうしてこうなった。 だいたいお題のせいです。

「そもそも、」
「あー、もちょっと待ってて、もちょっとだけ」
「……防犯上、お前のプライバシーや安全を守るためにも、私のような職場の付き合いでしかない人間に、こうポンポン安易に住所を渡すのは、」

「そうだ先輩焼き肉終わったらチョコ食べに行こ」
「話を聞け」

もちょっと。もうちょっとだけ、待ってて。
連休ブチ壊された友人のために、後輩はなにやら1個2個、ささやかな慰めを用意している様子。
後輩によって、つい先程封切られたばかりのトレーディングキーホルダーが、友人の推しだけより分けられ、小箱に収容されていく。
それは友人を思えばこその行為であり、完全に利他的な真の絆のための出費であった。

こいつの尊い友情と、共感と寄り添いの心さえあれば、私など焼き肉の会合には不要だと思うのだが。
藤森は静かな、しかし長く深いため息を吐いた。
何故私が必要なのだ。 つまりお題のせいです。

「焼肉屋、予約の時刻まで残り15分」
「時よ止まれぇぇ!」
「パニクってる暇があったら手を動かせ」
「先輩手伝って!」
「私が見ても問題無いものか?」
「ない!先輩も沼って!両足突っ込んで!」
「無茶言うな」

ドッタバッタ、からんからん。
想定より難航した利他的行為により、先輩後輩タッグは予定から約5分遅れでアパートを出発。
全力疾走と信号運とその他諸々によって、ふたりはギリギリ2分前、予約の焼肉屋に到着しましたとさ。
おしまい、おしまい。

2/13/2024, 9:13:58 PM