お題『お祭り』
「これください。」
「へいよ。お嬢ちゃん。」
お金を払うと、わたあめを渡してくれた。
「きれいな浴衣だね。さてはデートだな?」
にやりとおじちゃんが笑う。その顔に悪意はないが、心にチクっとささるものがあった。
「あはは、1人なんです。」
貼り付けた笑顔と取ってつけたような明るい声で言ってのける。するとバツが悪そうに「すまねぇな。」と言われた。別に構いやしない。夏祭りに、高校生が1人で来るなんて珍しいだろうから。
「ねぇ聞いて!今日はね念願の夏祭り!ヨーヨーを買ってきたんだけど…ほら、この模様とっても綺麗でしょ?あとね、金魚すくい…で…えと、何匹取ったかな。いち、に……さん……ううん、きっとあなたがいたらもっと取れただろうに。すぐに網が破れてだめだった。私、ほんと不器用だよね。器用なあなたが羨ましいよ。…………あっ、射的もやったよ!いっっ発も当たらなかった!去年はあなたがほしい景品を取ってくれてたっけ。あれってコツが居るの?てか結構重くない?支えるのだけで精一杯だったんだけど。あれ、もしかして軟弱だっていってる?ひどぉい!………あっ、これも買ってきたの、じゃがバターに、綿あめに、焼きそば、たこ焼き、りんご飴!これぜんぶ私が食べるためなんだからあげないよ。太るって?デリカシーないなぁ。夏祭りくらいたくさん食べたいの!!…ちなみにさ、浴衣姿になにか言うことないわけ?可愛いとかさぁ……」
私はお墓の前で、これ以上ないくらいはしゃいで騒ぎ立ててみる。返答はもちろんないし、周りに人もなく静まりかえっている。
5分くらい続けたが、バカバカしくなって口を閉ざした。散っていく花火を見ながら、今は甘すぎる綿あめを口に入れた。花火がぼやけていく。暖かいものが頬を伝う。
「帰ろ………何やってるんだろ。」
墓に背を向けた。その瞬間、
『浴衣姿、すごく似合ってるね。今年もお祭り楽しかった。ありがとう。』
声が聞こえた気がして振り返った。誰もいないし何も変わらない。気のせいかもしれない。
でももう少し一緒にいることを決め、お墓のそばによって、綿あめを口に入れた。とても甘くて、心が暖かくなった気がした。
7/28/2023, 11:44:41 PM