「先輩ってなにかつけてます?」
「んえ、別になんもつけてねえけど」
「でもなんか匂いが……」
「あーつけてるって香水のことね。んー……あ、ほらこれじゃね」
昼休みの廊下、人がまばらに行き交う中、偶然見つけた影をとっ捕まえて面白くもつまらなくもない話を駄弁っていると突然デリカシーが微妙に欠けたことを言い出した。
内ポケットから薄紫の液体が半分ほど入ったガラス小瓶を取り出すと不躾にヒトの体臭を嗅ぐぺちゃんこな鼻に制裁としてそれを噴射させる。
「うわっぺっぺっ!口に入っちゃいましたよ!」
「アホみたいに口開けてんのが悪いんじゃん」
「あ、でもいい匂い…。いいなあ、私もお金貯めて買おうかなあ」
「▓▓▓▓ちゃんにはまだ早いんじゃない?」
「私先輩と一個しか離れてないんですけど」
「一個もだよ」
じっとりと睥睨するがお世辞にも怖いとは呼べない、小生意気でかわゆい表情だ。
「先輩はいつから香水つけてるんですか」
「一年の時から」
「じゃか全然早くないじゃないですか!」
「うるせえなあ……オラ!」
「ぺっぺっぺっぺっ!やめてください!」
「ギャハハッ、▓▓▓▓ちゃんは赤ちゃんみたいな匂いさせときゃジューブンでしょ」
「乳臭いってことですか?」
「ミルクみたいないい匂いってこと」
オレはぴちぴちと暴れる小さな身体をぬいぐるみのように持ち上げ、その首筋に鼻先を埋めるとすぅっと一つ大きく深呼吸した。
#香水
8/30/2023, 5:23:43 PM