「うーん、聞こえない」
「そりゃそうだよ」
耳の横に丸く手を当てていた彼女が振り返った。
「そろそろ行かない?」
「待って! 私がやるから!」
両手を前に出して、懇願するように目で訴える。そこまでこだわる意味もわからないし……それに、一体なにを「やる」というのか。せせらぎが聞こえていない状態で沢を見つけるなんて、不可能に近いのに。ため息をこぼしながらそのようすを見守っていると、彼女が地面から比較的まっすぐな木の枝を取り上げた。……なるほど。
「頼むよー……」
その端を、土の地面にそっと立てる。彼女の指先を離れた枝が、南西方向を指し示した。
「こっち!」
「……」
真逆だ、と、伝えてもいいだろうか。
7/6/2025, 7:52:29 AM