蝉助

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「また吸ってる。」
西崎。
普段はアホみたいに仕事ができないくせに、こういう時だけは妙に目敏い。
ビルの隙間、屋上、喫煙所など毎回場所を変えているにも関わらず絶対にぬるりと現れる。
今日は屋上だった。
2本目に火を着けた瞬間、彼は怪訝そうな声で僕を引き止めた。
「犯罪ごとのように言うなよ、西崎には関係ないだろう?」
「そうだけどさぁ。」
手を口元へ寄せると、強い向かい風が僕を遮って、排出される煙の流れを乱す。
その一部を吸い込んで咳が溢れた。
腰が折れる。
「ばか、ばかだ。」
慌てて駆け寄った西崎が背中をさする。
「やめろよ、ばか。きもちわるい。」
「お前が勝手に咳き込んだからだろ。」
それでも背中を撫ぜる手を止めない彼の声色は少し怒っているように聞こえた。
しばらくすると、五目飯のような都会の空気が黒ずんだわだかまりを濾過して、酸素の航路を発掘する。
顔を上げれば眉根を寄せた西崎と目が合った。
「煙草吸ってるお前、いつも苦しそうだ。」

11/27/2025, 12:46:11 PM