季節は初夏。それは機能するモノとしてのモノを終わろうとしている。
ああ、これ麦わら帽子ですね――作業員はそれを手にして呟いた。へぇ、まあそれっぽい形してるもんな。一緒に登っていたもうひとりが応える。
大きさから量るに、子供のものだったのだろうか。つばはほつれ、半円形の部分にはつばだったわらや、どこかからもってきた雑多なもので埋め尽くされていた。そして大量の羽毛。
この帽子をなくした子供は、泣きながら家に帰ったのだろうか。家族にも叱られ、さらに泣いたのだろうか。そしてこの帽子は人知れず冬を越し、カラカラに乾いていたから、次の役割を果たすことになったのだろうか――作業員は休憩時間に考える。そうすると、あの帽子は多くの子供たちを見守っていたのだろうか。作業員は独身だし、子供も幼いきょうだいもいなかったからそのへんの感覚は分からなかったのだが、そうなのだろうと彼は思った。
だから作業員は棚から袋を取ってくると、帽子をそっとそこに入れて元の場所に戻した。廃棄されるのは変えられないし、さすがに作業員も欲しくはなかったから。
安田、行くぞ。
外から彼を呼ぶ声がしたので、作業員は部屋を出た。
じゃあ。たくさんの子供を見守ったどこかの帽子。たぶんお前はそんなに酷い扱いじゃなかったのかもな。
8/12/2023, 1:29:10 AM