まろ

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スノー

空から淡い光が落ちる日が来るたび、君が胸に戻ってくる。
あの冬の午後が、透明なガラスの中で永遠に回りつづけているように。

机の上に置かれたスノードームを手に取る。
君が最後にくれたもの。
「永遠って、こういうのを言うんだよ」
照れたように、でもどこか確信めいた声で笑った君の表情が、まだ指先に触れるみたいに鮮やかに蘇る。

けれど、どうしてだろう。
永遠をくれたはずの君は、私の隣で雪を見る側ではなくそのものになってしまった。
手のひらに舞い降りては、私の温度に触れた瞬間、静かに形を失っていく、儚い結晶のように。

窓の外で、ふわりと雪が落ちた。
粒を受け止めるように、そっと手を伸ばす。
白い粒はほんの一瞬だけ、冷たさと重さを主張して、それからあっけないほど簡単に溶けて消える。その瞬間、胸の奥がじんと熱くなる。

こんなふうに、君を思い出すたび、私の中で君は溶けて、また形を変えて降り積もる。

スノードームを軽く振ると、きらきらと結晶が舞う。
閉ざされた世界の中で、雪は永遠に降り続ける。
そこには君の気配があって、声があって、笑い方があって、私が知っているすべての君がゆっくりと漂っている。

もしも永遠が本当に存在するなら、きっとこんなふうに、止まらない雪のなかで呼吸しているのだろう。
君はもう触れられない場所に行ってしまったけれど、雪が降る日は、どうしてかすぐ近くにいる気がする。
まるで、白い世界のどこかで君が立ち止まり、私のほうを見ているみたいに。

だから今日も窓辺に座って、静かに雪を眺める。
降り積もる記憶と、溶けてゆく痛みと、手の中に残った温もりと。
雪が降るたび、私は君に触れる。
そして、触れた瞬間、また君を失う。

君が残した静かな光のなかで、私はまだ歩くことを許されている。

12/12/2025, 4:33:17 PM