家人の両手から白い毛糸玉がまろび出た。
毛糸玉は真っ黒くてツヤツヤの瞳で私を見上げる。
まっさらな命。
きゅんと鳴ったのは、私の胸の音か、それとも毛糸玉の「ヨロシクネ」の声か。
ヨロシクネ、と毛糸玉の頬にkissをする。
胸いっぱいに吸い込むと、ミルクのようなまあるい匂いがした。
毛糸玉から立派な成犬になり、季節が巡る。
喜びの日も、悲しみの日も、愛犬はほっこりと私を見上げ、尻尾を振る。
アリガトウネ、と愛犬の頬にkissをする。
胸いっぱいに吸い込むと、お散歩帰りの草の匂い、湿った土の匂い。
そしてフードの匂い、さっき焼いたサンマの匂い、何故かやみつきになるヨダレの匂い。
幸せで胸がきゅうっと鳴る。
余命宣告を受け床に臥せる愛犬は、瞳だけを動かして、
なのに、にっこりと尻尾を振り、私に愛を伝える。
爪をこすりつけた黒板のような音を立てたのは、くいしばった私の歯からか、それとも張り裂けた胸の音か。
アイシテル、と愛犬の頬に顔をうずめkissをする。
何度も何度も深くkissをする。
胸いっぱいに吸い込もうにも、嗚咽でままならない。
いかないで、
いかないで、
愛してる、
離れたくない。
kiss...
kiss kiss kiss kiss.........
2/4/2024, 1:45:24 PM