作家志望の高校生

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冬にしか会えない人がいる。日に弱い、色素の薄い真っ白な肌をした、同い年の幼馴染。今日は彼が日本に戻って来る日。僕は、彼を迎えるためだけに学校を休んで、空港へと足を運んでいた。
「おかえり!」
彼への第一声は、絶対僕がよかった。もう十年近くこの言葉を言い続けて、もう十回近く空港で彼に飛びついた。半分外国の血が入っている彼は、純日本人の僕よりずっと背が高い。全力で助走を付けて飛び込んだって、軽々と受け止められてしまうのだ。それが堪らなく嬉しくて、今年も僕は、彼の胸に飛び込んだ。
彼の親御さんは、抱き合う僕らを微笑ましいような目で見て、気を遣って後からゆっくり歩いてくるよう言ってくれた。空港からはそれなりに距離がある。雪の積もった田舎道を、肩が触れるくらい近くに寄り添って歩いた。
日本が夏の間、彼は季節が真逆のオーストラリアに住んでいる。毎年のことなのに、マメに毎年お土産をくれるのを、僕は毎年、子供っぽく喜んで満面の笑みで受け取る。本当は、お土産より何より、彼がすぐ近くにいることが嬉しいのだ。
彼と歩く道は寒くて、手袋を忘れた指先を容赦なく吹き付ける雪交じりの風は痛いくらいだ。けれど、チクチクと刺すような僅かな痛みも、動かなくなる指先も、彼と話す口がよく回りすぎて、弾む鼓動が速すぎて、気が付かなかった。
真っ赤になったお互いの指先を、いたずらっぽく笑って互いの首に寄せ合う。氷のように冷たい温度に悲鳴を上げて笑って、解けていく温度にまた笑う。彼と過ごす冬が来たのだと、その温度が実感させてくれた。
さくりさくりと、軽快な足音が2つ響く。それは、誰も踏み荒らしていない新雪の道だったり、或いは朝の霜が溶けない畑の畦道だったりする。真っ白な地面に、泥濘んだ土で汚れた靴裏の足跡が二筋残るのを振り返って、一人で口角を上げて笑ってしまう。
段々とそのサクサクとした足跡を消えて、住宅地の硬質なアスファルトを踏む音に変わっていく。それでも、横を歩く雪の足跡は消えなくて、足音は変わらず2つ響いている。
明日も、雪が積もるらしい。僕は早速、高校生らしくないとは分かっていながら彼と雪遊びの約束をして、今度は一人分だけ雪の足音を立てながら、温かな家へ入っていった。

テーマ:冬の足音

12/4/2025, 8:02:25 AM