ブランコ
挨拶にも応じない。自分の名前も住所も答えない。貝のように口を閉ざす。完全黙秘の容疑者。
もし僕が名刑事だったら。
固いパイプ椅子じゃなくて、公園のブランコに座らせよう。
最初は地面に足を着けて、じっと座っているだけかもしれない。でもきっとそのうち、膝を伸ばしたり戻したりをし始めるはずだ。だってブランコに座っているんだから。
次の日には、ちょっとだけ鎖を短くしちゃおう。足が地面にくっついているより、ちょっと離れそうなくらいのほうが、ゆらゆらしたい気持ちになりやすいはず。
その次の日には、僕も隣のブランコに座っちゃおう。本気を出せば、高くまで漕げるけど、そこまでは必要ない。のんびり、リラックス。ゆらゆら、ゆらゆら。きっと容疑者もつられてゆらゆら、ゆらゆら。
その次の次の日くらいには、岩のように固まった体が、足元からゆらゆら、ゆらゆら、ほぐれてく。コンクリートでできていた口元も、プリンのようにゆらゆら、ゆらゆら、柔らかくなっているはず。
その次の次の次の日くらいになったら、沈む夕日を並んで見ながら、刑事さん、自分がやりました、ってなるはず。よし。
身心一如。心と体は表裏一体。心が揺れづらいなら、体から揺らそう。悪者は絶対許さないぞ。
2/1/2024, 10:21:44 PM