白眼野 りゅー

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「君のさらさらとした髪が嫌いだ」

 とこぼせば

「珍しい価値観してるね」

 と苦笑されてしまった。


【さらさらと流れゆく】


「こんなに美しい彼女を捕まえて、罰当たりだな君は」

 質量のなさそうな髪に空気を含ませるみたいにふわりと掻き上げて、呆れたように君は言う。

「この髪で悩殺できない男なんていないと思ってた」
「いや悩殺はされてる」
「されてるんかい」

 柔らかい風に緩やかに弄ばれて、君の髪は決まった形を持たないみたいに変幻自在に揺れ動く。僕はそれを見つめる。

 手を伸ばす。僕の指は髪のどこにも引っ掛からず、あっさりと毛先まで滑り落ちていく。

「こうしてさらさらと、君の存在ごとどこかに流れていきそう」

 形のない水は、岩に引っ掛かることなくさらさらと下流に落ちていくものだから。

「そうなったら、掬い上げてよ。掴むんじゃなくてさ」

 一歩。君は笑って僕に近寄る。唇同士が触れ合うより先に、風に舞った君の髪がさらりと僕の首筋に触れる。それをそっと手で掬って、僕も笑った。

5/29/2025, 1:59:54 AM