『声が聞こえる』(His Master's Voice)ラッパ型のスピーカーから今は亡き兄の声が流れてくると、うずくまって眠っていた犬は耳をそばだて首を傾げてとことこと傍へと寄ってきた。「懐かしい声だろう」兄の声が犬の名前を呼ぶたびに彼は不思議そうにしながらもしっぽを緩やかに振っていた。ふいに視線を上げたのでつられてそちらを見てみるけれど、そこには変わり映えのしない我が家の一角があるばかり。犬は緩やかにしっぽを振って頻りにクンクンと鳴いていた。
9/23/2024, 3:46:37 AM