ヴィーナスは泡から生まれる。
だから私は、泡になりたかったのだ。
海は荒れ、泡立っていた。
どろどろと透き通ったミズクラゲが、海辺に打ち上げられていた。
かつて、彼は美しいあの人に向かって、口説き文句で言った。
あなたは私のヴィーナスだ、と。
私に向けてではなかったけど、確かに。
彼はモチーフを求めていた。
彼は切望していたのだ。
神でさえ魅了する美しさを。
だから私は、泡になりたい。
あなたが神に愛されるために。
あなたを神に愛させるために。
波が荒々しく打ちつけている。
海は泡立ち、白波を立てながら、クラゲを運んでくる。
高い波を眺めながら、泡になれないものかと考える。
人魚姫でもあるまいし、こんな海の中に飛び込んでも、私は泡になれないに違いない。
波が泡立っている。
私は、泡になりたい。
8/5/2025, 10:26:07 PM