愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
千ゲン



遡ること三十分前。

「あ゙ーーーー……」

俺は乱暴に頭を掻き回す。アイデア作りの作業に手をつけ始めて早数時間。目の前には白紙の紙一枚。今日までにこれを終わらせないと、この後の作業が滞る。その事実が俺を更に焦らせた。

「千空ちゃ〜ん、捗ってる〜?」

ゲンは間延びした声で俺を呼ぶ。

「…捗ってるように見えっか」

「いーや全然。だからさ千空ちゃん」

「あ?」

「丘に行こうよ」


そして現在。俺たちは小高い丘の上へ来ていた。ゲンと二人並びながら、どこまでも続く青い空をぼんやりと眺める。流れる雲を目で追っていると、視界の端から腕が伸びていることに気がつく。横を見るとゲンが空を指さしていた。

「ねー千空ちゃん、千空ちゃんは何で空が青いと思う?」

「あ゙?空が青いのは、あの太陽の光が地球の大気を通過するときに波長の短い青い光が散乱して…」

「わーっ!違う違う本当のこと聞いてるんじゃなくて」

「?」

「想像してみてよ」

ゲンは立ち上がり、クルクルと踊るように俺の周りを歩き出す。

「実は空には大きな鏡があって、海の色を映してるから青い、とか。神様が絵の具を間違えて垂らしちゃって青くしちゃったとか……それだと夕焼けの説明がつかないか」

ゲンは再び俺の横に座ると、空が青い理由を想像して様々なことを話し続けた。いつもは事実に基づいた証明出来ることばかりを考えているせいか、その柔軟さは中々新しい視点だと思った。本当に楽しそうに話すゲンを見て、俺は思わず目を細める。俺たちの目の前に広がる空と海は、共に青く、深く、そして美しく輝いていた。

「まぁ科学の大好きな千空ちゃんにはちょっと退屈だったかなー」

「…いや、たまには空想話もいいもんだ…。…あ゙」

「えっ、なになに」

「ククク…全部お前のお見通しって訳か…」

「えっえっ」

「てめぇの空想話が俺のグダった脳みそにテコ入れやがったんだ。しっかり手伝ってもらうぞメンタリスト」

あんなに時間をかけても進まなかったアイデア作りが驚く程スムーズに想像出来る。やるじゃねぇかゲン。百億万点やるよ…!

俺はいやいやと駄々をこねるゲンの首根っこをしっかりと掴むと、ズルズルと引きずりながらラボへと戻っていった。

10/23/2024, 12:26:35 PM