緋鳥

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欲望

 「貴女は色々欲しがる子だったよ」
 
 母親が愚痴とも思い出話とも取れる言葉をポツリと漏らしたのをやけに覚えていた。そして、その自覚は私にはあった。
 小学校では友達のキラキラしたペンケースが欲しくてその子と喧嘩をし、中学校では最新のスマホが欲しくて親に駄々をこね、そして現在、高校生の私はスマホの中に広がる綺麗な人達が羨ましくてたまらなくなった。

 綺麗に踊る同じ年頃の女の子。
 彼女との自撮りをあげる男の子。
 高得点を幸せそうに報告する知らない子。
 欲しかったものを手に入れた他人。
 美味しそうな料理を食べる大人。
 楽しそうに旅行している子供。
 笑顔で笑っている親子。
 可愛いペットと笑っている年寄り。

 みんな、みんな、私が持っていないものを持っている。

 なんで?なんで?私にはペットも彼氏も綺麗な洋服も可愛い顔もよく出来た頭も何もない。

 羨ましい。とSNSに呟くが共感のハートは集まらない。

 いいな。いいな。と、見かけた羨ましいものにハートを押す。
 画像や動画にハートがつく。だんだんと押しているうちに羨ましいといつもの感情が浮かんできた。
 
 私も、欲しい。

 それが承認欲求と言われるものだというのは、SNSの情報の中で自然と聞こえてきた。
 だからなんだというのだ。私は欲しい。
  
 キラキラしたカフェのメニューや、少し加工した可愛い自撮りをどんどんとSNSにあげていった。最初は見向きもされなかったが、少しずつ、ハートとフォロワーが増えてきた。

 上目使いが上手くなった。小顔に見える撮り方が上手くなった。流行りの服装とポーズが上手くなった。

 どんどん、ハートが増えていく。

 写真を上げた瞬間は通知が止まらない。だが数時間ですぐ通知は止まってしまう。それがたまらなく嫌だった。

 なんで?もっと。もっと。ハートを頂戴。いいね。って褒めて。

 あなたには出来ないでしょう?羨ましいでしょ?ねえ。

 欲求は止まらない。注目されたい欲望は止まらない。

 そして今日も私はカメラに笑顔を向ける。

 欲望はスマホ一つで簡単に叶えられる。

 

 

3/1/2024, 10:51:50 AM