「明日も一緒にコーヒーを飲もうね」
とてもささやかな、毎日を共に送るための約束
明日は必ずくるわけじゃない
このマグカップが明日も2つ並んでいるとは限らない
だから約束はささいなことを
毎日でも叶えられるように
明日も一緒にコーヒーを飲めるように
/11/15『ささやかな約束』
『天使様にお祈りを』
僕たちの村は、毎朝毎晩、天使様にお祈りをしていた。
村の中心にある天使様の像の前に跪き、その日の村の平和を願い、感謝を捧げるのだ。
天使様にお祈りを捧げるようになって幾百年か経ったある日。
村のみんながいつものように朝の祈りを捧げていると、ぺっと音がした。
音のした方を見ると、見知らぬ男が不機嫌そうに立っていた。
そして誰かが喚いた。
「天使様になんてことを!」
その声で一斉に天使像に視線が集まった。見れば天使様の腰布の辺りに、唾を吐きかけられた跡があったのだ。
「汚らわしい!」
「天罰が当たるぞ!」
村人は口々に怒りの声を上げた。
犯人は決まっている。あの見知らぬ男だ。村人が男を捕まえんと周囲を見回すも、男の姿はどこにもなかった。
その日の昼間は村総出で天使様を磨く作業に費やされた。
天使様に無礼を働いたお詫びの意味も込めて、村のみんながひと磨きずつ交代で天使様を拭いていった。
その晩、いつもの祈りの時間になって、村の人達が集まった。だが様子がいつもと違う。天使様の像付近が騒がしかった。
「こいつ!今朝はなんてことを!」
「離せ!ここから離れろ!みんな死ぬぞ!」
人垣で埋もれてよく見えなかったが、聞こえてくる声から察するに、どうやら今朝の男を捕まえたようだった。
そして男は、みなに「村を出ていけ、さもなくばみな死ぬぞ」といったことを言葉を変えながら、ずっと喚いていた。
村人たちは男の言葉を誰も信じていなかった。
見知らぬ男より、何百年もずっと守ってくださっていた天使像の方を信じるなんて至極当たり前の話だった。
男は檻に入れられていたが、3日目の晩、忽然と姿を消していた。
男の話が真実だと知るのはそれから半年後。
例年にない雨が続いた。村は雨によって増水した近くの川にのみ込まれ壊滅状態になった。
僕は奇跡的に生き残った。
突然頭に響いた声に従った結果だった。
その声が言った。
数年後に森の奥にある祠に一人で入ること。過去の村を救うこと。その際に天使の像を壊すこと。
声は淡々とそれだけを告げ、疑問を投げかける僕の声には何も答えず、言い終わるなり以降は何も聞こえなくなった。
何も分からないままだったが、お告げの中で1つだけ分かったことがある。
(そうか、あれは僕だったんだ)
見知らぬ男、あれは僕自身だったのだ。
あの時の僕は天使像を壊せずにいたが、どうなったのだろうか。
(それは今からわかることか)
祠の前に佇む僕は深呼吸をして足を踏み出した。
今から僕は村を救いに行く。何の意味もない信仰を壊すために。
/11/14『祈りの果て』
ふと立ち止まった時に、どこを向いているのか分からなくなった。
そもそも、今立っているのか?上がっているのか?落ちているのか?
進んでいるのか戻っているのかも分からずに、歩くことが怖くなって立ち止まった。
周囲は闇に包まれている。
光はない。目印もない。
進む方向が分からなくなった。
そこで気付いた。
自分は迷路に迷い込んでしまった。
自身も見えない真っ暗な中だというのに、ぼんやりと浮かんで見える道は何差路にも見えた。
どこに進めばいい?
どこへ向かえばいい?
どの道を選べば正解なのか。
思考だけがんじがらめになって、その場でうずくまった。
そんな心中を誰に見せるでもなく、僕らは毎日を生きている。
/11/13『心の迷路』
11/15/2025, 9:45:04 AM