かたいなか

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「枯葉に落ち葉、断然秋のイメージ強いけど、俳句の世界じゃ『冬』なのな……」
へぇ。調べてみるもんだ。某所在住物書きはスマホの画面を見ながら、季節外れの高温に顔をしかめた。
東京、23℃だそうである。しかしながら気象庁によると、今から90年程度昔の1930年2月、東京で25℃に迫る最高気温が観測されたらしい。

「初夏の気温の日に、秋を思わせる『枯葉』のお題が来て、実はそれが冬の季語……」
春だけが迷子。物書きは上手いこと言った気だが――

――――――

2月と思えぬ高温到来のこの頃、体調等、お変わりなくお過ごしでしょうか。季節外れにアイスなど食す物書きが、こんなおはなしをご用意しました。

都内某所、都内にしてはそこそこ深めの某森の中に、不思議な不思議な稲荷神社がありまして、
敷地内の一軒家には、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
末っ子の子狐は、お花とお星様が大好きな食いしん坊。美味しいお肉、美味しい山菜、美味しいお菓子、それから美味しい果物に目がありません。

そんなコンコン子狐、最近楽しみにしているのは、神社の近所、某アパートに住んでいる、藤森という名前の雪国出身者。去年、ひとつ約束をしたのです。
『実家が自家製雪中リンゴを始めたらしいから、
暖かくなって雪溶ける頃、子狐にも少し贈る』
それは青森をはじめとして、秋田や山形、長野等々でも作られている、豪雪を利用したスイーツでした。
メタいハナシでは、12月15日付近投稿分参照。
スワイプが面倒なので、気にしてはなりません。

昨今の暖冬で、例年より早く雪の中から掘り起こすことになったという、藤森の実家の雪中リンゴ。
今日ようやく、子狐の住む稲荷神社に、約20個入りの箱に詰めて、藤森の手により届けられました。
重さにしてだいたい5kg。都内価格やハウマッチ。
赤くツヤある1個と、黄色く美しい1個を、それぞれ母狐が6等分、スライスしてくれました。

「あまい、あまい!」
コンコン子狐、人生ならぬコン生初、雪中リンゴをご賞味です。シャクシャク、シャクシャク。藤森の故郷の冬の終わりを、子狐、幸福にご賞味です。
「セッチューリンゴ、あまい!」
東京から出たことがない子狐、ジューシーなスイーティーに、おくちいっぱい、かじりつきました。

冷たい雪が酸味を抑え、甘味を増やすその仕組みを知らぬ子狐、見知らぬ雪国を思い浮かべます。
きっとそこには、魔法の雪があるのです。食べ物をうんと美味しくする、不思議な雪があるのです。
藤森の故郷はきっと、それがたんと積もって、リンゴもブドウもダイコンもタケノコも、すべて、美味しくするのです。そうに違いないのです。

「雪に埋めれば、甘くなるなら、」
コンコン子狐、子供なので、閃きました。
「枯葉のお布団に埋めても、甘くなるかな」
なりません。土に還って、良き肥料になるだけです。
でも子狐、子供なので知らぬのです。

子狐の神社の住所は東京。遠い寒い藤森の故郷のように、魔法の雪はありません。
だけど子狐の神社には、稲荷のご加護、ウカノミタマのオオカミ様のご利益深き、水と草花と木とキノコと、もちろん枯葉も、あらゆる場所にあるのです。
魔法の雪には、ご加護とご利益の葉っぱで勝負!
コンコン子狐、残った18個のリンゴの中から、イチバン大きい、赤いリンゴを選び出して、パックリ!
小ちゃなおくちをしっかり開けて、小ちゃな牙でしっかり噛み持って、
神社の庭の、こんもりフッカフカに積もった枯葉のお布団へ、トテトテチテチテ、持っていきまして――

「あがっ、あがが……」
なんということでしょう。せっかく枯葉のお布団を、前足使って一生懸命掘ったのに、
リンゴをあんまりしっかり噛み持っていたせいで、
子狐の口から丸いリンゴが、ちっとも、少しも、たったの1ミリも、外れてくれないのです。
「がが、ぎゃぎゃぎゃ……」
どうしよう。助けてかかさん、助けてととさん。
コンコン子狐、枯葉の穴の前で少々困り果てますが、
丁度通りかかった「雪中リンゴの送り主」、藤森に無事救出されて、事なきを得ましたとさ。
おしまい、おしまい。

2/20/2024, 2:56:04 AM