いろ

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【紅茶の香り】

 サクリと音を立てて、君の歯列がクッキーを噛み砕く。その瞳が驚いたように丸くなった。
「え、何これ。美味しい」
「ふふっ、なら良かった」
 甘いものが苦手な君が、少しでも次のティーパーティを楽しめるように。試行錯誤を繰り返した甲斐があったというものだ。あっさりと一枚を食べ切った君がもう一つ手を伸ばすのを弾む心で眺めながら、私もクッキーを手に取った。
 ぱくりと食べれば鼻に抜ける色濃い紅茶の香り。甘さはほとんどない代わりに、紅茶の苦味が口一杯に広がる。うん、ちゃんと美味しく作れている。
 もぐもぐと無言で私の作ったクッキーを食べる君の表情が、私にとっては一番のご馳走だ。

10/28/2023, 1:42:57 AM