距離
電車に乗って、窓を見つめる。
在来線といっても、北海道は都市と都市の距離が大きすぎて内地とはイメージが異なるように思う。
札幌から乗車した特急の車窓には映るのは、真っ暗な闇。きっと外には冬の森が映っているのだろうが、暗くて何も見えない。
見えているのは、わたし。
コロナももう世の中は終わったというのに、私はいつもマスクをつけている。シースルーの前髪は、美容師との意思疎通が叶わず、極限まで減らされていた。マスクと前髪の間に見える目を私はじっと見つめる。
二重整形をした。
15万円ほど払って、イケメンの医者に二重を作ってもらった。大学4年生の時だった。
当時は、なんとも思わなかった。忌々しい厚ぼったい一重が私の元から消えて無くなることが嬉しくて仕方なかった。
何にも気にならなかったはずなのに、最近、このくだらない一本線を見るととてつもない胸の苦しさが込み上げる。
私が私であることを認識するたびに、また、私が私の顔をこんなもので良いと思う時間があるたびに、私はなんだか泣きたくなる。
誰にも咎められずはずのないひとりの人生であるはずなのに。
暗闇に映る女は、どんどん霞んで見えなくなる。
人生で一つ、不安や迷いが起こるたびにあれほどまでに大威張りで生きてきた頃を羨ましく思うのだ。
地元の駅に着いた時、私から遠のく私の存在から逃げるように改札を抜けた。
12/2/2024, 8:46:53 AM