過去に戻って何かをやり直せるなら、やり直したいことが1個や2個、なんなら10個くらい存在するのが、多くの人の心の中と思います。
金が安いうちに財産全つっぱ、
爆死確定ガチャへの課金中止、
もう見られないあんな景色、こんな景色、
まだ「酷暑」が存在せず、熱中症が「日射病」なんて名称だった、涼しき善き昭和に避暑トリップ。
今回のお題回収役も、そうでした。
「もしも過去へと行けるなら」、守りたい花が、救いたい草木が、残したい風景が、あったのでした。
お題回収役は、旧姓を附子山、今の名前を藤森といいまして、花咲き風吹く雪国の出身。
ひょんなことから不思議な不思議な、異世界系厨二ふぁんたじー組織と交流するようになりまして、
その組織は、東京を含む地球のような、それを内包する世界のような、発展途上の世界に対して、
先進世界の技術を伝授したり、滅亡世界から避難してきた難民を連れてきたり、
そういう活動を、しておったのでした。
組織は名前を「世界多様性機構」といいまして、
藤森が出会ったのは、世界多様性機構が東京に設置した支援拠点、出先機関、滅亡世界からの難民のための領事館。
領事館の館長さん、藤森に言いました。
『先進世界の技術を使えば、お前が守りたい花を守れるし、残したい風景も残せる。
だがそれは、世界の法に少しだけ引っかかる。
お前が罪に問われる可能性もあるだろう』
「それでも」
故郷を、日本の花を、それらが芽吹く自然を愛する藤森は、気候変動の異常さを思って言いました。
「それでも、私は故郷の花を、守りたい。
消えてしまった花を、もう一度、咲かせたい」
さぁ、ここからお題回収。
心優しい藤森、異世界系厨二ふぁんたじー組織の領事館へ、それが建っている都内某所の杉林の奥へ、
ひとり、入ってゆきました……。
――「既に完全に消滅してしまった花を、現代に蘇らせる方法は、あるのですか」
異世界組織の領事館に到着した藤森は、木漏れ日の入る談話室に通されまして、
そこで、領事館の館長さんに、聞きました。
「たとえばつまり……、
もしも過去へと行けるなら、1株だけでも、救い出して現代に植え直したい花があるのですが」
「この世界では、無理だ」
そう、「この」世界では。
再度強調する館長さん。小さく首を横に振ります。
「『もしも過去へと行けるなら』というか、『確実に、過去へは行ける』。
他の世界で技術は確立しているし、それを観光産業にしてる世界もある。
ただ、それは特殊過ぎる世界だ。あらゆる偶然と資源と、特定の物質とエネルギーと、それから、技術が揃う必要がある。
『この』世界に関しては、過去へは原則として行けない。例外があるとすれば、それは神の大魔法か、
あるいは、俺達の敵、世界線管理局の技術だ」
ただな。 ただ。
お題の「もしも」を聞いた藤森に、領事館の館長さん、1枚の画像を見せました。
「この国には、この世界の過去、そのものへ行く方法は無いが、この世界の過去の、平行世界に続く穴なら、既にある。 お前の故郷のイチョウだ」
お前も、見覚えがあるだろう。
領事館の館長さんが藤森に見せたのは、藤森の故郷の隣の隣の、とりあえず遠く離れた町に立つ、大きな大きなイチョウの木でした。
「これは」
藤森はそのイチョウを、よく知っていました。
「イタズラ狐の、大イチョウ」
それは地元で、「そのイチョウは、大きな黒穴を塞いでいるのだ」と言われている、不思議な不思議な昔話を内包したイチョウでした。
「もしも、過去へと行けるなら、と言ったな」
館長さんが言いました。
「過去へは行けない。だが、お前のやりたいことは、おそらくこのイチョウの下の黒穴にある。
詳しく聞くか? 管理局を敵に回す覚悟は?」
「私は、」
藤森の心は、ほぼほぼ、決まっていました。
「わたし、は……」
藤森は館長さんを、まっすぐ、見つめました。
といったところで「もしも過去へと行けるなら」のお題はおしまい、おしまい。
その先は今後のお題次第なのです。 しゃーない。
7/25/2025, 4:17:58 AM