【窓越しに見えるのは】
窓の外にはバケツでもひっくり返したかのような大雨が降っている。打ちつける雫で滲んだ窓に、そっと指先で触れた。
突然の夏の雷雨。せっかく海へ行く約束をしていたのにと、思わず溜息を吐き出した。
雨は嫌いだ。苦い記憶は全て、雨と結びついている。父親の怒号、母親のヒステリックな泣き声。いまだに耳元で響くそれらをかき消したくて、必死に耳を塞いだ。ああ、本当に。雨なんて大嫌いだ。自分自身の脆さをこれでもかと思い知らされる。
下唇を噛み締めて窓の外を睨みつけていれば、不意に鮮やかな赤色が霞んだ視界に映った。驚くと同時に電話が鳴る。反射的に取ればひらひらと、真っ赤な傘の下の人影が手を振った。
「来ちゃった。せっかくだから家で映画でも観ようよ」
ノイズの混じった朗らかな声が耳朶を打つ。途端に心が上を向くのだから現金なものだ。君がいないと、僕はダメになってしまう。
「濡れたでしょ、早く上がりなよ」
つっけんどんな口調を装いながら、玄関の鍵を開けるために立ち上がった。
窓越しに見える君は、太陽よりも眩しい僕の光だ。なんて、恥ずかしすぎて口が裂けても言うつもりはないけれど。
7/2/2023, 2:38:21 AM