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足を滑らせて、転落した。
私の死因はどうやらそのように説明されているらしい。

神様のいたずらか、屋上から落っこちて即死した後、私はあの世へ行かず、宙を浮かぶ幽霊となった。
自身の死体から離れられないため、私が棺桶に入れられるまでの工程を上から見守ってきたのだが、それがまぁ苦痛だった。
「なぜ死んだの」と泣く私の家族、親戚、友達。
馬鹿じゃないの、自分の胸に聞けよ。
もし声が届くならそう喚いてやりたかった。
お前らに追い詰められた。
お前らが私に“そう”させた。
お前らが!お前らのせいで!!
しかしされど幽霊。声は届かず浮かんでいるばかり。これを苦痛と言わずとしてなんと言う?

何やかんやあってようやくお葬式まで来たのだが、神様はいつまで私を現世に留まらせるつもりだろう?
もう自死した罰は充分与えたはずなのに。
ぼんやりとお経を聞いていると、突如場を裂くような悲鳴が上がった。
……あれ。
知った顔だった。幼少期の親友である沙智だ。確か外国へと引っ越したはずだが、まさか、わざわざ戻ってきたのだろうか。
目を真っ赤に腫らして、過呼吸に近い息をあげて、よたよたと私の棺桶に駆け寄る。立ち尽くしたかと思うと、そのまま棺桶に縋りついて大声で泣き出した。
「ごめんなさい…ごめんなさい…!」
謝っている。
何も悪くない、私の親友が泣いて謝っている。
誰一人言わなかった言葉を、涙声で繰り返している。
どうしてか私はむやみやたらに悲しくなって、沙智の側まで行って肩をさすろうとした。
しかしされど幽霊。手は沙智を貫通してしまう。
沙智は静寂の中、泣き続けている。

この瞬間、神様を呪った。
そうかそうか、お前はこれを見せたかったのか。
なんてタチの悪い。
せっかく未練を絶てたのに、
今更、死んだことを後悔しそうだ。

11/30/2024, 1:10:22 PM