今日は全国的に晴れるでしょう。
テレビの明るい声を聞きながら窓の外に目をやる。
俺の地域は日本じゃないのか、厚い雲が空を覆っている。
「雨が降りそうだな。傘を持って行った方が良さそうだ。」
台所から聞こえてくる食器の音に独り言っぽく言ってみた。
もちろん返事が返ってくるわけがない。どうせ独り言のつもりだったので問題ない、と言い聞かせる。
結婚して27年。結婚生活は上手くいっている方だと思っていた。2人の子供を育てあげ、定年まであと少し。なにも変わらない穏やかな生活を過ごすのみだと思っていた。
いつからか妻の様子が変わった。ずっと不機嫌で何を言っても返事がない。まるで俺が見えないかのように振る舞う。どうせ更年期とかだろう、ホルモン的なことだろうと思って放っておいたが口をきかなくなってもうすぐ1年になる。27年も連れ添ったはずなのに何を考えているのか全く分からなくなった。
なんとなく押し寄せる不安があるが、妻のことで心が掻き乱されるのも正直煩わしい。モヤモヤを振り切るかのように傘をブンブン振って歩く。
目の前で茶色い髪の毛が揺れる。
お、あれは最近入社した社員だ。20代だと言っていたが愛嬌があって上層部に気に入られていた。
「おはよう。」
肩を叩くと少し驚いた様子で振り返る。
「課長。おはようございます。」
晴れやかな笑顔を見せてくれる。
「雨が降ったら服が濡れて気持ち悪いね。」
若い女性との会話なんて久しぶりすぎて何を話せばいいか分からない。少し困った様子で
「そうですねえ。でも今日は晴れるらしいので、大丈夫ですよ。」
彼女の耳が少し赤くなる。何を考えているのか分かりやすい。
隣にいても全く何を考えているか分からない妻とは違う。きっと彼女とはもともと心の距離が近いのだ。
「何か会社で困ったことはないか?何かあれば相談に乗るよ。今度飯でもどうだ?」
12/2/2024, 11:09:03 AM