「貴公があの方の供を勤めたのか」
「·····供をせよと命じられたからした。それだけだ」
「·····そうか。そうだな。貴公はそういう男だった」
「本来貴公の仕事だろう。私はああいう華やかな場は出来ればごめん蒙りたいんだ」
「分かった。肝に銘じておくよ」
「·····なんだ」
「なにって、握手を」
「何故だ」
「道中あの方を護ってくれたんだろう? 」
「·····」
「·····痛いよ」
「·····ふん」
◆◆◆
あの日掴んだ掌の温かさが、忘れられない。
痛いよ、と小さく笑った男の声も。
あの時、掌と胸に宿ったほのかな温もり。
あの時の男の言葉は、けっして世辞や媚びから出たものではなかった。
勤めを果たしたことを素直に称賛する声と掌は、私に初めての感覚をもたらした。
――あぁ、この男は·····。
END
「あの日の温もり」
3/1/2025, 9:29:00 AM