NISHIMOTO

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 昼間は潮騒に程遠い。日差しとカーテンが手を取り合って眠気を送るので、おれはそれに逆らわず目を閉じる。でも程遠い。
 夜。部屋の明かりを消すと知らない闇が広がる。夕飯を終え、歯を磨き、明日の準備をして、それから飛び込む。ぬるい空気は慣れた水温みたいに肌を撫でた。
 おれの海はここにある。
 一面だけの窓は山側を向いている。街灯にそっぽを向いて網戸で飛ぶ虫を隔てば、波のような風だけ。気まぐれな寄せ引きだけがくらい部屋に訪れる。
 いくらか味わったあとにしずかに目を閉じて、耳の奥で音を聞いた。
 ぐう、ごお、さあ、ざあ。カーテンは闇色と海色の間ではらむ。
 さあ、ざあ、ざあん、ざざん。波の音がつぎはぎの幻に染みわたる。
 朝日がおれを打ち上げるまでくらいゆりかごで眠った。

8/15/2023, 12:14:41 PM