「『LINE』はこれで今年3回目なんだわ……」
7月11日の「1件のLINE」、9月1日か2日付近の「開けないLINE」。そして「君からのLINE」。
さすがに4度目のこのアルファベット4文字は無いだろう、多分。某所在住物書きは配信された題目に対して、昨日に続き今日も、頭を抱えた。
ネタの枯渇である。加齢で固くなった頭で、そうそう何度もグループチャットアプリの物語を書けようか。
「『1件のLINE』は、普通にちゃっと風景書いたわな。『開けないLINE』は『開けない、既読を付けない』って話を書いた。……次は……?」
これ、次回のお題も難題だったら、どうしよう。
物書は悩みに悩み、何か突破口は無かろうかと、スマホの中のチャット履歴をそれとなく辿った。
――――――
3連休初日だっていうのに、心の中が嵐だ。
理由は2個ある。ひとつは金曜の昼休憩。私が読んでた推しの二次創作、「書きかけ」タグが付けられたやつの完結編が、推しの死ネタで幕を下ろしたこと。
なんか涙出そうになったけど、コレはコレで別に良い。二次創作だし、なにより物語そのものは感動できる終わり方だったから。
もうひとつがクソだ。職場のゴマスリ上司、後増利係長が、その日の夜に私達の仕事の成果を盗んでった。
コレのせいで、せっかくの土曜の、先輩のアパートでの美味しいシェアランチが、
ランチが、
……でも美味しい。
後増利係長。課長にその名のとおり、ゴマスリばっかりしてるエロクソ上司。
面倒な仕事は全部部下に丸投げして、その成果だけ横取りしてく、悪い上司の見本その2。
ちなみにその1はゴマスリの前任。今年の4月に成敗されたオツボネ係長だ。
ゴマスリは、私と先輩が、頑固なお客さん相手にコツコツ信頼関係結んで、何度も足運んで修正して、そうやって契約間近まで持ち込んだ仕事を、
最後の最後、あとは契約書にサインするだけって段階になって、「本来は自分の仕事だから」って。
うん(言葉にならない憤り)
「茶が入った。飲むか」
どちゃくそ頑張ったのに、その頑張ったのが、全部全然頑張ってないゴマスリの物になった。
それが金曜日。3連休前日の夜。
「おちゃ……」
私はもう、二次創作の感動と、悲しみと、色々かきむしりたくなる仕事の怒りとで、情緒がぐっちゃぐっちゃのまま土曜日に突入して、
朝ごはんも、昼ごはんも作る気無くて、そのぐっちゃぐっちゃを先輩に心配されて、チャットアプリのメッセでランチに誘われた。
『飯を作り過ぎたから食いにこないか』って。
「ごめん。機嫌悪いから、貰っても飲めない」
「そう言うな。ミント入りの、台湾烏龍だ。スッキリするぞ」
「無理ったら、無理。気持ちだけ」
「連休明けに赤っ恥確定のゴマスリをツマミに飲む茶は美味いと思わないか?」
「へ?」
「先方のご意向だ。大分お怒りになられてる」
火曜まで内緒だぞ。軽く人差し指を唇に当てて、スマホのチャット画面を見せながら、先輩が言った。
「金曜日、後増利係長に、仕事の成果を取られただろう。つまりあの件の担当者が、私とお前から、後増利係長に移るわけだ。
よって『担当が変わる』と、金曜の夜すぐ、あの客に連絡を入れたら、『お前らだから話を進めたんだ』、『担当を戻せ』とお叱りを受けてな」
ほら、コレだ。
先輩が見せてくれたチャット画面には、担当が私と先輩から、ゴマスリ係長になるって事実に対して、荒れに荒れまくってるお客さんのメッセが怒涛の勢いでブチ込まれてた。
わお(言葉にならない浄化)
「火曜日、朝イチで、電話によるご連絡を先方から」
氷の入った薄琥珀色、それで満たされたカップを、先輩が私に差し出した。
「スッキリするぞ。きっと」
しっとり汗かいたカップを受け取って、例のお客さんから来たメッセを見ながら飲んだお茶は、
確かにミントが鼻に抜けて、すごく、すっごく、スッキリした。
9/16/2023, 5:37:29 AM