遠井一人

Open App

「いい加減に直せよな、お前」

先を歩く友人に、期待はせずに言ってみる。
くるりと振り返る友人は、いつも通りの清々しい笑みだった。どういう神経で笑ってるんだろうか。

「何を?」
「危険に自分から突っ込むのを、だ。さっきのも肝が冷えたわ」
「何か変な事あったっけ?」
「ちびっ子助けるのに道路に飛び出しただろ!ああいう危なっかしいことするなって言ってんだよ!」

いつもそうだ。猫を助けるために折れそうな木に昇ったり、溺れてるヤツを助けるために深い河に飛び込んだり、命を張って誰かを助けに行く。
今回だって、トラックに轢かれそうな子供を助けて、自分が轢かれかけたのにヘラヘラ笑ってやがる。
止めに入っても、今までそれが上手くいった試しも無い。止めて、すり抜けられて、無傷で誰かを助けて、ヘラヘラ笑って戻ってくる。
自分の命を何とも思っていないのか、と思ってしまう。

「でも、助かってるじゃない」
「次は無いかも知れねぇだろ、なんでそんな自分の命が軽いんだよお前……」
「その時はその時。あと、自分の命が軽い、なんて思ったことは無いよ」
「……余計わかんねぇ、付き合い長いけどお前の事まだ本当にわかんねぇ」

でっかい溜息と一緒に吐き捨てると、友人は心外そうな顔になった。

「じゃあ、なんでそんな私に付き合ってるの?」
「危なっかしいからだ、毎度止めても止まんねぇけど」
「じゃあ、そういう事なんだと思う」
「はぁ?」
「キミが私を止められないなら、多分そういうことなんだよ」

クスクス笑いながら近づいてくる。残り1歩、という所で、友人は俺を見上げた。

「私、運命って大好きなんだ」
「……ああ、そうかよ」

俺の返答に満足したのか、友人は「分かればよろしい」とだけ言って抱き着いてきた。
女子の、というか友人の体格の小ささに驚きつつ、改めて一生コイツに振り回される覚悟を決めた。


お題:最初から決まってた

8/7/2024, 3:15:55 PM