towa_noburu

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「青く深く」

私の生まれたアンドロメダ銀河は赤い銀河と言われている。何故ならば、血濡れた歴史の繰り返しだからだ。初めて、故郷の銀河を離れ、天の川銀河を訪れた時、文明自体は稚拙だが、原始的な魅力の詰まったとある惑星に強く惹かれた。その惑星にすぐにでも降り立ちたい衝動に駆られたが、そこは自然保護区で、外部の宇宙人は上空から見守る事しか天の川銀河の宇宙法規上許されていなかった。
私は観光用の宇宙船に乗り込み、窓際で頬杖をついた。
「青い星は数多くあれど、こんなに深みのある水の星は初めてだわ。なんて、美しいんだろう…。」
私は持ち寄った記憶装置で、水の星の観察スケッチを手早く描き記した。
「美しいよね、でもこの星は死にかけてる。」
顔を上げると、背の高い男がいた。同じ観光客だろうか。
「え…」
私はその発言に驚愕した。
「君、もしかして外部銀河の人?その赤い髪は天の川じゃ珍しい。」
「ええ、アンドロメダから来たわ。」
「…あぁ、それは難儀な…」
男は深く頭を下げると手を合わせた。
「死にかけているとはどういう事なの?」
男は私の隣の席に座った。
「言葉の通りだよ。この星は…死にかけてる。寿命の話じゃない。心が死にかけてるんだ。僕にはわかる。」
「何故わかるの?」
私は疑問に思い聞き返した。
「当事者だから。」
「?」
「僕はこの星で生まれ育った、若い頃に天の川銀河の奴らに保護されたんだ。」
「貴方はチキュウジンなの?」
「…昔はね。」
男は眉を下げて、皮肉混じりに微笑んだ。
「君は惑星の心はどこにあると思う?」
「…私の故郷では、惑星達は皆悲鳴をあげたわ。心なんて考えた事なかった。物理的な殺戮と爆発。戦乱は常に小さな星を丸ごと消し去る。彼ら惑星の痛みを感じる暇もないくらい私の故郷は余裕がなかった。」
私は俯いた。手が少し震えた。今もなお脳裏に焼き付いて離れないのだ。あの業火に燃える、故郷の星が。
「…それは辛いね。…僕はね、地球の心は水に宿ると考える。その水は沢山の音や記憶を吸って常に地脈を流れる。」
「貴方は、あの美しい水の星の根幹がもう死にかけていると言いたいの?」
男は返事をする代わりに頷いた。
「当事者だからね…わかるんだ。僕らは星に対して償いきれない痛みを生み出し続けている。」
男は上を向き、きつく目を閉じた。
まるで祈りを捧げているかのようだ。

なんだ、どこも同じなのか。
どこも身勝手な生命が、大きな宿主を食い散らかしているのか。

私は男と別れ、観光船を後にした。
記憶装置には沢山の美しい水の星のスケッチが溜まっていた。
私はそれらを眺めながら、心の整理をつけた。
赤い銀河、アンドロメダ。もう嫌気がさす故郷の星々。それでも、私は目を背けちゃいけないんだ。だって私も当事者なんだから。

水の星、私の心を一時潤してくれた美しい星。
どうか、貴方の心が癒えますように。
そう、願いながら私は元来た道を歩み始めた。

6/29/2025, 11:16:26 AM