フィロ

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僕は最近、睡眠にトラブルを抱えている

元々メンタルが弱めで、日中の様々なことを引きずってしまい睡眠に支障をきたしているようなのだ

そこで、『快眠を促す』と謳うアプリを使い始めた
まだ劇的な改善はな無いものの、アプリを使っているという安心感からか、悪くない気がする

すると、更にオプションが追加された
まだ試作段階だが興味があれば試せる『真夜中の秘策』と何とも怪しげなプランがあるという
なんでも、そのオプションの内容は、「真夜中の0時になると前の日の嫌なイメージや気分がリセット」されるという画期的なものらしい

真夜中の0時というのが何とも胡散臭いし、
脳に何らかのダメージは無いのか?と不安にも思ったが、良い睡眠を得られないことの方がダメージだとの説明に深く納得し、早速試すことにした

「記憶が飛ぶわけじゃないもんな
気分が爽快になるなら最高じゃん!」とすでにウキウキした気分になり始めていた


ちょうど昨日、彼女と派手な喧嘩をやらかしたところだった
最後にはカンカンに怒った彼女の口から
「もう無理!もうこの先は無いから!」
と捨て台詞が飛び出し、僕はただ呆然と、彼女の後を追うことなくその後ろ姿を見送ってしまった

すぐに追いかけなかったこと、なじられるのが嫌で謝りの電話もメールも入れなかったこと、考えれば考えるほど自分の情けなさが頭の中を占領し、その重さで項垂れた頭があがらなくなる程だった

だからその思いをスッキリさせて、改めて彼女に謝りたかった


いつものアプリにそのオプションを追加して、後は明日の目覚めを待つだけだ



いつもよりしっかり眠れた実感がある
確かに気分爽快だ!
昨日の喧嘩の記憶もしっかりある
それなのに、情けなさどころか自信に満ちている
朝日に向かって
「俺は最強だ~!」
と叫びたい気分だ

「凄いな、このオプション! もう充分使えるじゃんか!効果てきめんだよ」
と何とも清々しい気分で顔を洗おうとした瞬間、携帯が鳴った
彼女からだった

「……… 昨日は、ごめんなさい…私…」
と言いかけた彼女の言葉を遮って僕は話し始めた

昨日の謝罪と彼女への思いを、この溢れ出る爽快な気持ちの勢いを借りて真っ先に伝えたかったのだ

「ぜ~んぜん、ドンマイ!まったく気にしてないし、昨日の夜なんかいつもよりバッチリ眠ったし、お蔭で気分は爽快よ!」
と、言うはずだった大事な言葉をすっ飛ばして、あろう事かこんな能天気テンションの言葉が次から次に飛び出してしまった


「ひどい……
私なんて、後悔して後悔して、一睡も出来なかったのに…
いつもよりぐっすりって何?!」
「私の存在なんて、そんなものだったのね
後悔して損したわ!
もう、最低!!」
「違うんだ!待ってくれよ!」
と僕は通話の途切れた携帯に向かって叫び続けた


「あぁ… 終わった…
何だよ?あのテンション…」
体の力が抜けた

そこへメールの着信音が鳴った

『オプションの効果はいかがでしたでしょうか?
感想をお寄せいただけると幸いです』

「バカヤロー! 効果あり過ぎだよ!!」





『真夜中』


5/18/2024, 4:30:42 AM