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「世界に一つだけ」

今日も無事に仕事を終え、ビールと食材を買い込んで帰宅する。あれっ、明かりがついてる。

「おかえり。早かったんだね」
「ただいま。おかえり」

何十年経とうが、毎日のこのやりとりに幸せを感じてしまう。

「サラダはできてるよ。ご飯ももうすぐ炊ける」
「ありがと」

ビールや食材を冷蔵庫に入れながら、ちらっと夫の顔を盗み見る。

「ん、何?」

そこはスルーしてほしかった。ただ顔を見たいだけなんて恥ずかしくて言えない。

「別に何でもない」

着替えて来るねとその場を離れた。ご褒美のような時間だ。3人の子育てと双方の親の介護、すべてを乗り切って今がある。

食卓についてビールを注ぐ。私が夫のために作ったタンブラー。どこにも売ってない、世界に一つだけ。陶芸教室で作ったものだ。誕生日にプレゼントしたくて教室に通った。もうやめてしまったけど、土をこねている間は無心になれた。目的のタンブラーができてやめてしまったけど、もっと作ってもよかったな。世界に一つだけのもの。

「いただきます」

2人で声を揃えて食べ始める。テレビでクイズ番組を見ながら、正解して笑い、間違えて笑う。この時間も世界に一つだけ。世界に一つだけを積み重ねて今がある。

9/10/2024, 9:50:25 AM