とある恋人たちの日常。

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 まだ友達だった頃。
 この都市に来てからの目標を達成して買えた車を友達に自慢したくて修理屋に行った。
 修理が必要だった訳じゃなくて、友達だった頃の彼女が働いていたから。
 
 先輩を連れて行っただけで、あとの友達は全然連絡が付かなくて、先日友達になった彼女がいるかなと思って覗いたら彼女がいた。
 
「目標の車が買えたんだ、少しドライブしない?」
 
 彼女は会社の人たちに確認をとって、一緒に行くと言ってくれた。
 
 今思うと、勝手に従業員を連れ出してごめんなさい。
 
 でも、この時間は俺にとって心に残るものになった。
 
 話を聞くと、彼女はワーカホリック気味でどこへ行きたいと聞いても、「分からない」と返ってくる。
 だから適当に車を走らせた。
 赤信号の時に彼女へ視線を送るとキラキラと目を輝かせているから、本当に何も知らないんだろうな。
 
「わあ、素敵なホテルだ!」
 
 彼女の言葉に、どれと聞く。指し示したホテルに車を走らせる。
 
 観光にもなっている海辺のホテルだから、泊まり客じゃなくてもレストランに入れた。
 
「折角だからご飯食べる?」
「食べる!」
 
 ホテルのレストランでもドレスコードが無さそうで、気軽に入って食事をする。仕事から抜け出させたお詫びもかねて俺が奢るけれと思ったよりリーズナブルで助かった。
 
 帰る前にホテルの庭を軽く見学しようと歩いていると、宿泊者専用のプールがあった。
 
 海の近くなのにプールがあるのは不思議だねと笑っていると日差しを浴びた笑顔に惹き付けられる。
 
「夏になったら来たいですね」
「うん、そうだね」
 
 〝みんなで〟
 
 と、言おうと思ったけれど、何故かその言葉を出すことが出来なかった。
 
 人気のありそうだし、宿泊者以外でも入れるホテルだから、知り合いも来られる場所だとは思うけれど……それでも俺は彼女に言った。
 
「またふたりで来ようね」
「はい。折角だから秘密の場所ってことで!」
 
 何気ない返事だったけれど、どこか見透かされたような気持ちになる。でも、それも嬉しかった。
 
 今思うと、この頃から彼女に惹かれていたんだな。
 
 
 
おわり
 
 
 
二九六、秘密の場所

3/8/2025, 1:58:20 PM