怖い夢を見た
前に勤めていた会社で
上司や先輩からこっぴどく叱責される夢
カーテンの隙間から洩れる光は薄暗く
私はノロノロと布団を出ると
普段の自分ではあり得ないほどのスピードで
トイレに向かった
退職して半年以上が経った
時間が癒してくれるだろうと思った傷は
相変わらず血が滲んでは、スルスルと流れ落ちていたのだった
あんなにウキウキと
壁アートを施したトイレの壁も
廊下の壁も
その鮮やかなはずの色彩が
くすんでグレーがかって見える
何も
痛み以外、感じない
パートナーは「トラウマになってるんじゃないか?」と言った
そう、なんだろう
他人事のように独りごちると
私はため息と共に便座から立ち上がった
パートナーは既に起きて、出勤準備を整えていた
私の様子に気づいたのだろう
「どうしたの?怖い夢を見た?」
彼の顔に『心配』という2文字が浮かんだ
怖い夢
そう
私の無防備な精神をバットで袋叩きにされたような
痛くて
苦しくて
辛くて
やるせなくなって
泪が流れる夢
「うん…」
私は彼の背中にしがみついた
アイロンをかけてぱりっと仕上がったシャツにシワがクシャリと描かれた
几帳面な彼は気にせず、「そうかぁ…」と間延びした声音でそのままでいてくれた
「俺はね」
「うん」
「君からだんだん笑顔が無くなっていくのが心配だった」
「…」
「だんだん痩せて、小さくなって…。治療が始まって、君にとっては不本意な終わり方だったかもしれないけれど、あの職場を離れて、よかったと思ってるんだ」
「…でも」
私は息を吸った
「でも、私は、何も出来なくなっちゃった。役にた、たなく…なって…」
喉がつかえて、泪が溢れた
私は、何の役にも立っていない
彼が私の両手を優しく包む
「違うよ」
「生きていてくれるだけで、いいんだ」
私は、あの職場にいた自分を救えずにいる。
夢の中でも。
でも、苦しみが、泪が、報われるように、進むのだ。
あの人達とは訣別したのだ。
さよならなんて、きれいな言葉は投げてあげない。
忘れてしまうくらい、幸せに、楽しく生きてやるんだ。
#さよならを言う前に
8/21/2024, 7:51:18 AM