『秋風』
「かぜさーん!なっちゃんにも、かきをおとしてくださーい!」庭の柿の木の下で、娘のなつきがまた叫んでいる。
事の発端は先週、久しぶりに遊びに来た父が落ちて来た柿を偶然キャッチしたところから始まる。たまたまそんなことになったのだが、横に居たなつきには、まるで木が父に柿をプレゼントしてくれた様に見えたらしい。
「こりゃ、虫にやられたな…」柿を見ながら言う父に、そんな事情が分からないなつきは、食べたい!食べたい!とせがんだ。
これは食べられ無いから他のにしようといくら言ってもそれがいいと聞かず、涙目になった孫の顔を見て父はうろたえた。
「もしかしたら、秋風が吹けばまた柿が落ちるかもしれんなぁ」苦し紛れに言った父の言葉を真に受けて、それからなつきは、毎日柿の木の下で風を待っている。やれやれ、一体いつまで続くのやら…。けれど真剣にお願いするなつきの可愛い姿をずっと見ていたい気もするのだった。
11/15/2024, 9:33:04 AM