「大したことないすぐ帰ってくる」
「いや」
そう強い口調で反発した彼女の目には
涙が浮かんでいた。
「なんて事ないただの用事さ」
「ならここにいてよ!」
悲痛な声がだだっぴろいロビーに響く。
付き人のロンは気まずいだろうに、それを全く顔には出さない。
崩れ落ちた彼女はエリックの脚にしがみつく。
エリックは動揺した。
普段は我儘を言うなんて決してないリリーが感情剥き出しに縋り付くなんて。
エリックは本当に大したことない用事ならそんな彼女の我儘を叶えてここにいてやりたかった。
けどだめだ。
今日は外せない。
今日だけは。
震え出した拳ぎゅっと握る。
彼女を大切に思うなら。
「お土産は何がいいかな」
「そんなの、いらない」
「…」
「どうしても駄目ならついて行く」
「悪いが、」
「そうよね、分かってる」
「花を1輪」
絞り出したような小さな声でそう言った。
「花…?」
「あなたの一番好きな花を」
「あぁ必ず」
目を細めてなるべく優しい笑顔を浮かべる。
最後に彼女頭を撫でる。
大した用事でもないと言うのに
彼女はいつまでも不安そうな瞳で
今にも行くなという。
リリーは知っていた。
エリックは必ず届けてくれることを。
ロンから彼の一番好きな花を受け取る。
彼の代わりに抱きしめる。
ユリが微かに香る。
10/24/2024, 1:23:53 PM