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ふと、“不条理”と“理不尽”について考えた。

検索するとどちらも「道理に合わない」という意味で「どうしようもない問題に直面し、絶望しているような状況」に使われるらしい。

違いと言えば、“理不尽”は個人的な感情を比較的強く含むのに対し、“不条理”は個人の域を超えた、世界情勢などの社会的なことに使われる傾向にあるということ。

“不条理”というのは随分と主語のスケールが大きいようだ。




昨日同じ部署の同僚にあらぬ疑いをかけられたときに「大体あんたの指示は不条理だ。みんなそう思ってる。」と言われてズキっと心が痛んだ。

勿論、そんな事実はないと分かっていながらもそう思われていたことにショックと、そう思わせた事実に猛省し、私は身を縮ませた。

寝て少し忘れていたはずなのに、会社に近づくにつれて足取りが重くなる。

そして、ふと考えたのだ。
“不条理”ってなんだろう、と。

もやもやしたまま、自分の席に着くと昨日その場にいた後輩からのメモに気がついた。


『自分の立場に甘えて、昨日発言できませんでした。私は先輩がそんな人だとは思ってないし周りからも聞いたことがありません。そう思っていながら、反論することを躊躇ってしまいました。申し訳ありません。』


メモを読み終える頃、上司とメモ書きの張本人がやってきた。

「高橋、お前昨日大変だったみたいだな。近藤から報告受けた。」
「ちはる先輩、すみません。昨日は何も行動を起こせなくて。」

上司の一歩後ろで申し訳なさそうにする後輩に、私は首を横に振った。


「この件についてはこちらに任せろ、あいつ関連の報告他にもいくつかあがってるんだ。

あいつ、主語を大きくして都合のいいこと言う癖あるだろ。近藤があの場にいた他の人にも話を聞いてくれたみたいだが誰1人賛同するやつはいなかったそうだ。

大体、主語が大きいやつは自分の意思がないから意見を補強するために他人を巻き込んだ言い方をするんだ、気にするな。」



“みんな”そう思ってる。

その言葉に私は酷く狼狽えたが、確かに振り返ってみれば、あの場にいた人は誰も口を開かなかった。あの時喋っていたのは同僚だけだ。

意味をわかってか、それともたまたまか、
“不条理”といったのも自分の話を強くするための補強だったということか。


まだ不安そうにする後輩に、私は軽く微笑んだ。

「心配かけてごめん。もう大丈夫。」

その言葉に少しだけ後輩の緊張が解れたように見えた。






1週間経ち、同僚の主張は“理不尽”だったと私の中でも処理できて、今では完全復活してバリバリ仕事をこなしている。


ちなみに例の同僚は部署異動になった。

どうやら他で起こしていたトラブルがかなり大きなものだったらしく、休日明けには既に同僚のデスクが綺麗になっていた。

実質の左遷らしい。
もぬけの殻になってると風の噂で聞いた。

問題解決のために動いてくれた上司に感謝を伝えると

「自分の意思を持ってないやつが主語を大きくしてハリボテの意見を主張したところで、身ぐるみを剥がされると何も残らない、空っぽだよ。あんな風にははなるなよ。」

とヒラヒラ手を振りながら振り返りもせず歩いて行った。


#不条理

3/18/2024, 11:54:07 AM