作家志望の高校生

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僕はいい子なのだ。みんなそう言ってくれる。優等生といえば、と問えば、学校の先生も、親も、友達も、みんな口を揃えて僕の名を挙げた。
彼らの期待を裏切らないために、誰にも嫌われず、迷惑をかけず、平凡な日常を過ごすために、僕は必死だった。毎日毎日、表面上の僕が誰の願いも断れないのをいいことに利用してくる奴らを相手して、無駄な仕事を増やされて、それでも愚痴の一つさえこぼさず笑顔で受け入れた。
そんな、僕にも唯一、何より嫌いな人がいる。
そいつは必死に取り繕って被っている猫を、いとも容易く、たった一言で剥がしてしまうのだ。僕と同等が、あるいはそれ以上に人々に好かれているのに、何故か僕とは振る舞いが真逆。クールぶっていて一匹狼、素行不良に粗野な物言い。それなのに、彼はその全てを許されていた。
ずっと前、ほんの二、三言話したことがある。その時に分かってしまった。彼は、天性の人誑しなのだ。
いつも一人で、態度は冷たい。それなのに、案外子供っぽく、幼稚で、素直。話してみれば話し上手で、誰にでも話題を合わせられる。僕なんかより、ずっと器用に生きているタイプの人間なのだろう。
僕はそれが、気に食わなかった。何故みんなあんな奴を好くのかと。内心ずっと、彼に対する嫉妬と羨望の混じり合ったドロドロとした感情が渦を巻いていた。
そんな折だった。僕はほんの少しのミスで全てを失った。一度だけだ。たった一度、クラスの中心人物から頼まれた頼み事を断った。その日は妹の誕生日で、どれだけ人に好かれようと努力している僕でも、流石にそこを邪魔されるのは嫌だった。
彼はそれが気に食わなかったらしい。次の日から僕はクラス中から無視されて、先生達も気まずそうな顔をして見ぬふりをする。親には迷惑ばかりかけているし、こんなこと言えそうにない。誰もがみんな敵になって、僕は逃げ場も無いままに押し殺されそうになっていた。
僕はいい子なんじゃなかった。誰にとっても、都合のいい子でしかなかった。
そんな絶望に浸かりかけていた僕を救ったのは、僕が心の底から嫌いだった、彼一人だけだった。
一匹狼で、誰の意見も聞かない彼は、中心人物の男子の命令にも平然と逆らった。みんなの前で、僕に話しかけた。
彼が自分から人に話しかけることは滅多にない。それも相まって、あの男子生徒の癪に障ったらしい。僕らは2人で、クラス中から無視される存在となった。
けれど、もうそれでよかった。一人ではなかったのだ。誰もがみんな敵になっても、彼はまっすぐ僕を見ていてくれた。大きすぎた嫉妬と嫌いが裏返って、重たくて、見せられないような醜い執着と愛に変わっていく。
誰も見ない教室の隅で、僕らはずっと、ふたりぼっちになることを選んだ。

テーマ:誰もがみんな

2/11/2026, 7:45:38 AM