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待ってて

「待っててね」お前の口癖だった。
用事があるとき、買い物へ出かける時、風呂に入る時、ご飯の準備をしている時。
待っててねって言わないと俺がどこかへ行ってしまうと心配でもしているのかと思わず聞きたくなってしまう程お前の口からよく聞いた言葉。でもいつも俺の元に帰ってくるから、別に気にもしていなかったし「俺はお前の元に帰ってくるよ」って言われている気がして、悪い気はしなかった。
あの日、お前がいつも通り「待っててね」と言って買い物に出かけた。何分、何時間、待てど暮らせど帰ってこない。
次に俺がお前と会った時には温もりはなかった。信号無視をした車に轢かれそうになった子どもを庇って跳ねられてしまったそうだ。随分と格好の良い死に様じゃないか。きっと助けられた子どもやその両親なんて、生涯お前に感謝しながら生きていくことだろうな。命の恩人だって。子どもが助かって、本当に良かった。
なあ、お前俺に「待っててね」って言ったよな?
待たされる側、遺される側の気持ち、分かるか?
訳の分からない調理器具だらけのキッチン、右側の寒いベッド、一組余っているスリッパ、見かけたままの映画。
お前、俺の元に帰ってくるんじゃねぇのかよ。
ずっとずっと、待ってるのになんでいつもみたいに帰ってこないんだ。今日も俺は帰ってくるはずのないお前を待ち続ける。

2/13/2023, 2:29:31 PM