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「七夕、今年も雨でしたね」
と、隣の彼女が言う。
「そうですね」
と、僕。
天上に昇る天の川にかかる、アルタイルとベガを結ぶ線は、多分、故郷の石垣島でないと、晴天のうちに見ることは叶わないだろう。
沖縄では、もう梅雨明けだ。
九州の空は暗い。
今日も、フライトは雷雲の中を、ガタガタと揺れながら、彼女のアナウンスを聞いて、雲を突っきるような、航行だった。
彼女は、それを、知ってか知らずか、
「今日、笹に沖縄に行けますようにって、書いたんです」
「いけるでしょ。あの、僕の故郷、石垣島なんだけど……」
「知ってます、よ」
彼女は、どこか、苦笑したように笑う。
「ねぇ、副機長。明日は、沖縄便飛ぶといいですね。沖縄だと、空も綺麗でしょうから」
暗い夜の中で、僕たちだけが、息をしている。
海に潜る時みたいな、息苦しさと、透明度を保って、僕たちの距離感がある。
二人の、くっつくかくっつかないかの距離は、多分、僕と隣に座った機長よりは、遠い。
織姫と彦星みたいになりたい?
いや、いや。
そんな、甘さを帯びた、開いた貝みたいな、恋愛未満の境界線。

7/7/2023, 10:21:05 AM