かたいなか

Open App

「『お金に』正直。正直『に試験の赤点申告』。
『怒らないから』正直『に挙手しなさい』。
正直『早朝に突然叩き起こされるのはキツイ』。
アレンジし放題よな。シンプル万歳」
アレンジが容易であることと、物語を簡単に書けることとは、全然イコールじゃねぇけどな。某所在住物書きはため息を吐き、頭をガリガリ掻いた。

正直なところ、現実時間軸風の連載モドキを投稿し続けているので、今朝の地震に関する話題は折り込みたい物書きである。
書きたいものと書けるもの、書いて大丈夫なものをそれぞれ全部満たすのは難しい。
防災小ネタ集は、また今度かな。物書きは「書きたいもの」を保留とした。
「……そもそも俺の執筆スキルとレベルがレベルだから、『書きたいもの』より『書けるもの』最優先で行かねぇと投稿に24時間以上かかるんだわ」
しゃーない、しゃーない。

――――――

「正直」と聞いて、思い浮かぶひとがいる。
正直者という正直者ではない。でも確実に、誠実ではあるし、他者に優しさを持てるひと。
雪国の田舎出身だという職場の先輩だ。

「おい。起きろ。寝坊助」
今年の2月まで、本店の同じ部署で働いてた。
自分のことを「人間嫌いの捻くれ者」って言う、真面目で優しい先輩で、初恋さんに長いこと酷く悩まされてた諸事情持ちだ。
「朝メシの準備ができた。まだ体調がすぐれないようなら、例の茶っ葉屋に寄れ。店主が二日酔いと体調不良に効く薬茶を無料で調合してくれるそうだ」

私が梅雨シーズンでメンタルダウンしてる時に、差し入れで、水出しのお茶をサッと出してくれる。
昨日みたいに雨が酷くて、気温と気圧とホルモンバランスだか自律神経だかの不調が悪く重なった時は、体にやさしくて食べやすい料理も作ってくれる。
「こんなカタブツの部屋に、長時間居たくもないだろう。道中気をつけて帰れよ」
そんな、正直私のライフラインのひとつと化してるくらい、ありがたい先輩だ。

「……なんでわたし、先輩の家で寝てるの」
「昨日、帰宅する私にくっついて部屋まで来た」
「なんで」
「分からない。昨日のお前に聞いてくれ」

「お昼に缶チューとホロヨイしこたま飲んで、レモンケーキたらふく食べてからの記憶が無い」
「だろうな」

面倒見が良くて、仕事もできる。なんならごはんも美味しいやつ作ってくれる。「人間嫌い」と言ってるくせに、やってることが真逆なひと。
こんな先輩の心を「解釈違い」だ「地雷」だってズッタズタにした贅沢な初恋さんがいたけど、
きっとその初恋さんのズッタズタが深過ぎて、先輩自身、自分の優しさに正直になり切れないんだろうなと、個人的に推理してる。

根は善い人なんです(事実)
心の傷のせいで正直が怖いだけなんです(推測)
最近この初恋さんと、やっと完全に縁が切れたから、先輩の心の傷は多分これから順次、癒えていくものと思われるのです(善良な願望)

「朝ごはん何?」
「海苔茶漬けとシジミの味噌汁、それから果物と野菜のサラダを。必要なら梅干しも出すが」
「わお。和洋折衷」
「パンの方が良かったか。悪かったな」
「逆にぶっちゃけお茶漬け助かります」

着替えて諸々整えて、座って、お茶漬けの静かな湯気を心の美顔スチーマーよろしくいっぱいに吸い込む。
自分の温かさに正直になれない、「自称」人間嫌いの捻くれ者な先輩が作ってくれたごはんは、舌にのせて喉に通すと、優しい味がした。
「おいしい。普通におかわりできる」
「当店味変の追加オプションとして、チーズ卵胡椒に山椒の葉等々、各種ご用意しております」
「お茶漬けの味変……?」

「豚バラとかカツオの刺し身の炙りとか?」
「豚バラ茶漬け、食欲に正直、最高かな……?」
「少しだけならツナと鮭もある」
「最高だな……?」

6/3/2024, 5:11:15 AM