また明日
「……じゃあ、また明日来るよ」
そう言って、もう一度彼女の手を握る。
名残惜しげに顔を見ながら、病室の扉を閉めた。
――彼女が、「植物状態」になり、三週間が経つ。
いつ、目を覚ますかなんてわからない。でも。
「……なんで、喧嘩別れになったんだろうな」
彼女とは、「結婚」についての話題で口論となった。
その後に彼女の自転車と、ハタチそこらの人間のバイクが衝突事故を起こした。
結婚を考えてないわけではない。ただ、今の自分で、家庭を持つことに不安があった。
でも。こんなことなら。
ちゃんと、伝えたら良かったのに。
――大切で、大好きだから。ちゃんとしっかり考えたい、と。
植物状態になった人間が、意識が回復する確率は、日が経てば経つほど、低くなると聞いた。
つまり、今の自分にとっては「また明日」は、呪いの言葉だ。
明日になったら、もしかしたら目を覚ましてるかもしれない。
明日になっても、その眼は閉じたまま、回復はしてないかもしれない。
なぜ、こんなにも。
明日を望むと同時に、明日を恐ろしく感じなければいけないのだろう。
願いは、ただひとつ。
――目を、開けてほしい。
それでも、自分は行くのだろう。彼女のもとへ。
これからいくつの「また明日」を繰り返せば、彼女は目覚めてくれるのだろうか。果てしなく、絶望が押し寄せる。
一滴、涙がこぼれた。
5/22/2024, 9:58:42 PM