「こんな夢を見た」から始まる小説

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こんな夢を見た。家に来ないかと男友達に誘われたので、遊びに行った。
「借りてたマンガ持ってきたから返すね。あと、コンビニでお菓子買ってきたよ」
「ああ、うん。それなら、飲み物取ってくるよ。次借りるマンガ、探してていいから」
彼が部屋を出ると、私は次に借りるマンガを物色し始めた。取り敢えず今読んでいるマンガの続きを二、三冊拝借した。たまには、小説でも読んでみようか。私でも読みやすい小説は…。小説のタイトルとにらめっこしていると、本棚からドサッと本が一冊落ちた。
「何だろう…」
拾い上げてみると、表紙に『My Heart』と箔押しされたハードカバーの本だった。
「マイ・ハート?何かの小説かな…」
だが、作者の名前はない。開くと、横に罫線が入ったページに日付と癖のある彼の字が並んでいる。
「これ、日記だ」
彼に日記を書く習慣があったとは。読書が好きな人だから、書くのも好きなのかな。耳を澄ませるが、部屋の外に足音は聞こえない。気配もしないし、まだ戻ってきてはいないはず。
「少しだけなら…良いよね」
物静かで優しいけど、何を考えているか分からない彼のことが少し分かるかもしれない。意外な一面が見られることを期待しながら文字を目で追う。だが、私が期待したものではなかった。
「これ、私のこと…?」
日記には彼の日常や本音ではなく、私の行動と発言が事細かに書かれていた。それから、必ず彼の一言がある。
「今日も…」
「今日も可愛い、ね」
急に背後から読み上げられ、私は悲鳴を上げる。
「へえ、マンガ以外の活字に興味あったんだ」
読み上げたのは彼で、ジュースのペットボトルを二本持っている。テーブルにそれを置くと、私から日記を取り上げた。
「勝手に読むなんて、酷いじゃないか。知ったとしても、僕の気持ちを受け入れる気なんかないくせに」
彼は日記を大事そうに抱えた。
「何で、こんなものを…」
「僕は君が好きなんだ。でも、君は僕のことを異性の友人ぐらいにしか思ってない。現に、僕の部屋に来ても特に警戒もしないしさ」
彼は机の上に日記を置くと私の前に座り、私の両手を包むように握った。
「内心、気持ち悪いと思ってるでしょ。こんな風に君との時間を記録して後で読み返してるなんて。でも、君との時間は僕にとってそれくらい幸せで大事なものなんだ」
だから、と彼は私を見つめる。
「日記のことは見逃してほしいんだ。あれがなくなったら僕、君に何をするか分からないから」
彼の視線は下がり、手をきつく握られた。これは、脅迫じゃないのか。たとえ日記を見逃したところで、彼が今まで通り接してくれるとは思えない。返事に困って彼を見る。何故か、とろんとした彼の目と目が合った。
「大丈夫だよ、恋人になれなくても。僕はただ君とずっと一緒にいたいだけだから」
彼の中でなにやら話が進んだらしい。頬を赤らめる彼に、私は間違えたのかもしれないと後悔した。

3/28/2026, 8:01:44 AM