小さい頃、できない約束をいつもの調子で交わして、
友達の君は去り際に「ずっと覚えてるからな」と一言を残した。
この瞬間が訪れるのを分かって君は私とそう誓った。
ひどいよ。
私を不安にさせないように、無理な約束をするなんて。
普通なら怒るところなのに、何故かそんな気にならない。
あーあ。
こんなにも募らなかったら、咽ぶこともないのに。
長い月日が経って、私は高校を卒業した。
あの頃の約束を覚えてはいるけど、今日まで来てしまうと思い出の底に沈んでいる。
晴れて大学生になって、これからは行きも帰りも電車一本。一時間という長めの道のり。
知り合った友達と話に花を咲かせても、君の笑顔が脳裏にちらついてばかり。
そんな感情が一回は瞬く日々を過ごして、今日は一人で帰路を辿っている。
人気の少ない車両にぽつり。
座席に腰かけて揺られるがまま。
沈む太陽にただ見つめるがまま。
電車が中間の駅に停まった。そして間もなくして前進を始めた。
私の隣に男が座る。少しは空けているけど、不思議とこの感じから懐かしさを覚えた。
「ぼんやりしてんな」
名残のある口調。
男らしくなった声色。
知っている雰囲気。
見なくとも分かってしまう、君の正体。
頬が緩む。整っていた息が震えてきた。
私は思わず俯いた。
見たくない。でも、離れたくない。
「うるさい」
頬に伝う雫を、君は指で拭った。
おそるおそる、私は顔を上げた。
あーあ。我慢できなくて見ちゃった。
心の水甕からとめどなく溢れてくるのを、抑えきれなくなってしまった。
「約束、ようやく果たせるね」
良かった。
君のことを忘れなくて。
遠い約束をした分、責任とってよね。
【遠い約束】
4/8/2025, 11:54:17 AM