《バイバイ》
『エミリー、私と子供を残して死ぬんじゃない!』
私は涙を流しながら、病床の妻へと叫ぶ。
エミリーも涙を流しながら言う。
「ごめんなさい・・・、アーサー、あなたと子供を残して死にたく・・・ない・・・」
そう言いながら目を閉じた妻にしがみつき、嗚咽を漏らし、これ以上涙が出ないというほど泣いた。
妻が亡くなった後は、1人で子育てをし、再婚もせず老衰で死んだ。
◾️◾️◾️
以上が前世の話だ。
前世を覚えているなんてまるで物語りのようだ。
しかも、最愛の妻と今生でも会うなんて。
しかし、今生では2人とも虫に生まれ変わったのだ。
私以外の虫には感情はないと、たぶん思うのだが、私は前世の記憶のせいか感情がある。
私は彼女(前世の妻)にアタックすることにした。
アタックするといっても、昆虫だ。
アタック=交尾だ。
人間の時のように、付き合うだの結婚だのはない、おまけに名前もない。
だが彼女との子供ができるのは嬉しい。
私は彼女に近づき、交尾をした。
彼女の感情が分からないのが難点だが、前世の妻と出会い、また関係をもち、子供をもてるかもしれないなんて僥倖だ。
悦に浸っていると、突然彼女が私の頭部に食いついてきて食べ始めた、もしゃもしゃと食べているのが片目から見える、もう片方の目はすでに彼女の口の中だ。
さらに彼女は口を開け、残りの私の頭部に食らいついた。
・・・そういえば、カマキリのメスは交尾中や交尾後などにオスを食べる事があると前世の書物で読んだような気がすると、今際の際で思い出した。
途切れゆく意識の中で、自分の体が子供の栄養になるならまぁいいかと思った。役に立ったのだと思えた。
バイバイ、また来世で会おう。
2/1/2025, 11:11:52 AM