300字小説
墓守桜
『妾はこの寺の桜の古木じゃ。お主に頼みたいことがある。妾はもう長くはない。醜く朽ちて死ぬくらいなら、美しく咲き誇ったまま切り倒しておくれ』
夢枕に立った桜の精の頼みとおり、寺男は桜の木を切り倒した。望みが叶い桜は、倒れる前に枝の全ての花を散らせ、境内は薄紅に染まったという。
「……その後、寺男は桜の枝を継いで、数十年後にまた見事に桜の木を復活させたと伝えられてます」
ガイドさんの話に境内を見回す。
「……いた」
視える私の目に寺の墓地、古い墓石の隣に咲く桜の木の精が映る。たおやかな身体を風に任せ、緩やかに揺れている。
「これからも、ずっと彼の墓を守っていくんだろうな」
花びらがひらひらと墓の上に舞って降りた。
お題「これからも、ずっと」
4/8/2024, 11:58:24 AM